私は高校時代、本当に怠惰でした。
「明日こそは朝6時に起きて勉強しよう」と決意して眠りにつく。目覚ましが鳴る。止める。「あと5分だけ……」と思いながらスマホを開く。SNSを眺める。動画を見る。気づいたら12時。
こんなことを何度繰り返したかわかりません。
自分を責めました。「なんて意志が弱いんだ」「こんなんじゃ受験に落ちる」「明日こそは絶対に……」。でも、次の日も同じことの繰り返し。根性論では何も変わりませんでした。
そこで私は考え方を変えました。「なぜ動けないのか」を、理論的に分析してみようと。
その結果、一つの理論に辿り着きました。私はこれを勝手に「ドーパミン理論」と呼んでいます。
※注意:これは科学的に実証された理論ではなく、私が自分の経験から導き出した独自の考え方です。「こういう風に考えたら自分を動かせるようになった」という、一つのフレームワークとして読んでいただければと思います。
私の高校時代──「怠惰」の極み
まず、私がどれだけ怠惰だったかをお話しさせてください。
朝起きられない話はすでにしました。でも、それだけではありません。
休日に「今日は10時間勉強する」と決める。机に向かう。参考書を開く。1問目を読む。「……ちょっと難しいな」と思う。「まずYouTubeで解説動画を探そう」とスマホを開く。関連動画が目に入る。気づいたら2時間経っている。
「図書館に行こう」と思う。でも、着替えるのが面倒。外は寒い。「家でもできるし」と言い訳をして、結局ベッドでゴロゴロ。
テスト前夜。「もう時間がない」という焦りだけが募る。でも、焦れば焦るほど集中できない。結局、最低限の範囲だけ詰め込んで終わり。
当時の私は、こう思っていました。
「自分は意志が弱い人間なんだ」と。
でも、本当にそうでしょうか?
人間は「ドーパミン」で動く
ここからが本題です。少し理屈っぽい話になりますが、お付き合いください。
人間が行動を起こすとき、脳内ではドーパミンという物質が分泌されています。ドーパミンは「報酬」や「快感」と結びついた神経伝達物質で、「これをやったら気持ちいいことがあるぞ」と脳が予測したときに出ます。
ここで重要なのは、ドーパミンは「やる気」の源泉であるということです。
ドーパミンが出ていないと、人間は動けません。「やらなきゃ」と頭ではわかっていても、身体が動かない。それは意志の弱さではなく、脳がその行動に対してドーパミンを出していないからなのです。
「5キロ走らないとご飯が食べられない」問題
わかりやすい例を出します。
あなたはお腹が空いています。目の前にご飯がある。食べたい。でも、「5キロ走らないと食べちゃダメ」というルールがあるとします。
さて、あなたは走りますか?
おそらく、多くの人は「面倒だな……」と思うはずです。お腹は空いている。ご飯は食べたい。でも、5キロ走るのはしんどい。「やっぱり我慢しよう」「あとでいいや」となる人も多いでしょう。
ここで何が起きているかというと、「ご飯を食べる」という報酬に対するドーパミンよりも、「5キロ走る」というコストが上回っているのです。
勉強も同じです。
「志望校に合格したい」という報酬はある。でも、「今から2時間、数学の問題を解く」というコストが重すぎる。だから動けない。これは意志の問題ではなく、ドーパミンの収支の問題なのです。
戦略①──ドーパミンの「絶対量」を増やす
では、どうすればいいのか。
一つ目の戦略は、勉強に対するドーパミンの絶対量を増やすことです。
つまり、「勉強したい」「勉強したらいいことがある」と脳に思わせる。報酬を大きくして、コストを上回らせる作戦です。
報酬を設定する
最もシンプルな方法は、勉強の後にご褒美を用意することです。
「この範囲を終わらせたら、コンビニでアイスを買っていい」
「1時間集中できたら、30分だけゲームしていい」
「今日のノルマを達成したら、夜は好きな動画を見ていい」
バカバカしいと思うかもしれません。でも、脳は意外と単純です。「この行動の先に報酬がある」と認識させるだけで、ドーパミンが出やすくなるのです。
ポイントは、報酬を具体的に、そして確実に与えること。「頑張ったら何かいいことあるかも」では弱い。「この問題集を10ページやったら、絶対にアイスを食べる」と決める。そして、実際に食べる。この繰り返しで、脳は「勉強→報酬」という回路を学習していきます。
合格後の自分を鮮明にイメージする
もう一つの方法は、未来の報酬を脳にリアルに想像させることです。
「志望校に受かりたい」——これは誰でも思っています。でも、これだけでは弱い。抽象的すぎて、ドーパミンが出ないのです。
大事なのは、具体的に、鮮明に、五感を使ってイメージすること。
合格発表の日、自分の番号を見つけた瞬間。親に「受かったよ」と電話する声。友達からの「おめでとう」というLINE。入学式の日、キャンパスを歩く自分。サークルの新歓で先輩と話している自分。
こういう具体的なシーンを想像すると、脳は「これは本当に起こりうる未来だ」と認識します。そして、その未来を手に入れるための行動——つまり勉強——に対してドーパミンを出し始めるのです。
私は受験期、志望校のキャンパスを何度も訪れました。そこで写真を撮り、スマホの壁紙にしていました。勉強が嫌になったとき、その写真を見る。「ここに通うんだ」と思う。それだけで、少しだけやる気が戻ってきました。
危機感を「正しく」使う
ドーパミンは「快感」だけでなく、「危機回避」でも分泌されます。
「このままだとヤバい」という危機感も、行動を促すドーパミンの源泉になりうるのです。
ただし、使い方には注意が必要です。
「受験に落ちたら人生終わり」——これは危機感としては大きすぎます。大きすぎる危機感は、むしろ行動を麻痺させます。怖すぎて、考えたくなくなる。現実から逃避したくなる。
効果的なのは、直近の、具体的な締め切りです。
「来週の模試で、この範囲が出る」
「明日の小テストで、ここが問われる」
「3日後に、先生に進捗を報告しなきゃいけない」
こういう近くて、逃げられない締め切りは、適度な危機感を生みます。そしてその危機感が、行動を促すドーパミンに変わるのです。
私は「1年後の入試」という遠い危機感では動けませんでした。でも、「来週の確認テスト」という近い危機感なら、なんとか動けた。だから、意図的に小さな締め切りを自分で作るようにしていました。
戦略②──ドーパミンの「閾値」をコントロールする
ここからが、この理論の核心です。
ドーパミンの「絶対量」を増やすだけでは、実は不十分なのです。もう一つ、考えなければならない要素がある。
それが「閾値(いきち)」です。
閾値とは何か
閾値とは、「行動を起こすために必要な、最低限のドーパミン量」のことです。
わかりやすく言うと、「行動を開始するためのハードルの高さ」です。
例えば、「机に向かって勉強を始める」という行動を考えてみてください。
この行動を起こすために、どれだけの「めんどくさい」を乗り越えなければならないか。それが閾値です。
閾値が高いと、たとえドーパミンが出ていても、行動に移れません。逆に閾値が低ければ、少しのドーパミンでも動き始められる。
つまり、「ドーパミン量 > 閾値」のとき、人は行動を起こす。
これが私の「ドーパミン理論」の核心です。
勉強の閾値を下げる
では、勉強の閾値を下げるにはどうすればいいか。
「勉強を始めるまでの工程」を極限まで減らすことです。
多くの人は、勉強を始めるまでにこんなステップを踏んでいます:
- ベッドから起き上がる
- 着替える
- 顔を洗う
- 机に向かう
- 教材を出す
- ノートを開く
- ペンを持つ
- 「さて、どこからやろうか」と考える
- ようやく1問目を読み始める
これ、9ステップもあります。
各ステップに「めんどくさい」が存在します。その「めんどくさい」の総和が、閾値になる。9ステップもあれば、閾値は相当高くなります。
だから、ステップを減らすのです。
私がやっていたのは、こういうことです:
- 教材を開いたまま寝る——翌朝、机を見た瞬間に「ここからだ」とわかる
- ペンをノートの上に置いておく——探す手間がゼロになる
- 「明日の1問目」を前夜に決めておく——「どこからやろうか」と迷う時間がなくなる
- 部屋着のまま勉強する——着替えるステップを削除
バカバカしいと思うかもしれません。でも、これが効くのです。
「机に座ったら、0秒で勉強が始まる」という状態を作る。それだけで、閾値は劇的に下がります。
誘惑の閾値を上げる
ここからがさらに重要です。
勉強の閾値を下げるだけでは、まだ足りません。なぜなら、勉強よりも閾値が低くて、ドーパミンが大量に出るものが周りにあるからです。
それが、スマホであり、YouTubeであり、ベッドです。
スマホを考えてみてください。
閾値は? ほぼゼロです。手を伸ばせば届く。ロックを解除するだけ。1秒で使い始められます。
ドーパミン量は? 膨大です。SNSの通知、新着動画、ゲームのログインボーナス。脳が喜ぶ刺激が無限に供給されます。
つまり、スマホは「閾値ほぼゼロ、ドーパミン無限大」という、最強の誘惑なのです。
勉強の閾値をどれだけ下げても、スマホの閾値がゼロのままでは勝てません。だから、誘惑の閾値を意図的に上げる必要があるのです。
私がやっていたのは、こういうことです:
- スマホを別の部屋に置く——取りに行くのが「めんどくさい」になる
- スマホを親に預ける——「返して」と言うのが恥ずかしいという心理的コストが加わる
- SNSアプリを消す——再インストールの手間が閾値になる
- ベッドを片付ける——「横になる」の閾値を上げる
- 布団を畳んで押し入れにしまう——出すのがめんどくさくなる
要するに、誘惑に「摩擦」を加えるのです。
スマホをいじるのに10秒かかるようにする。ベッドに横になるのに30秒かかるようにする。それだけで、誘惑に負ける確率はぐっと下がります。
なぜ「図書館で勉強しろ」と言われるのか
ここまで読んで、一つのことに気づいたかもしれません。
昔から言われている「図書館で勉強しろ」というアドバイス。これ、ドーパミン理論で説明すると非常に理にかなっているのです。
図書館では:
- スマホを使いにくい(周りの目がある)→ 誘惑の閾値が上がる
- ベッドがない → 寝るという選択肢が消える
- 周りが勉強している → 自分もやらなきゃという圧力がかかる
- 娯楽がない → 勉強以外の選択肢の閾値が全部上がる
つまり図書館は、誘惑の閾値が強制的に上がる環境なのです。
ただし、落とし穴もあります。
「図書館に行く」という行動自体の閾値が高い。着替える、移動する、席を探す……これらのステップが、勉強を始める前の障壁になります。
だから、「図書館に行く」という行動の閾値も下げる工夫が必要です。
前日に持ち物を準備しておく。行く時間を決めておく。友達と待ち合わせる(約束があると行かざるを得なくなる)。
環境の力と、閾値コントロール。この両方を使いこなすのが、ドーパミン理論の実践です。
結論──「意志」ではなく「設計」で勝つ
長々と書いてきましたが、言いたいことはシンプルです。
「動けない自分」を責めても、何も変わらない。
「意志が弱い」「根性がない」「もっと頑張らなきゃ」——そう思っても、脳の仕組みは変わりません。ドーパミンが出なければ、人間は動けないのです。
だから、発想を変える。
「どうすれば脳が動かざるを得ない状況を作れるか」を考える。
勉強へのドーパミンを増やし、勉強の閾値を下げる。誘惑の閾値を上げ、環境を設計する。根性論ではなく、仕組みで自分をハックする。
これが、怠惰だった私が辿り着いた答えです。
繰り返しますが、これは私の独自理論です。科学的に正しいかどうかはわかりません。
でも、少なくとも私には効きました。朝6時に起きて12時まで布団の中にいた私が、受験期にはそれなりに勉強できるようになりました。
もし「自分は意志が弱い」と悩んでいる人がいたら、試してみてください。
あなたの意志は弱くない。ただ、脳の仕組みを知らなかっただけかもしれません。